Fahrenheit -華氏-
「え……?」
一瞬、何を言われてるのか分からなかった。きょとんとして柏木さんを仰ぐ。
「香水、ファーレンハイトですね」
気のせい?柏木さんの表情が微妙に……何て言うか曇った感じがするのは。
でもまばたきをして、次に見たときは相変わらずの無表情で、
気のせい、か……
「あ、あぁ香水ね…。よく分かったね。あ、彼氏がつけてるとか?」
さりげなく彼氏がいるのかリサーチしてみた。
「いえ。彼氏なんていません」
ラッキー♪
彼氏がいないってことはガンガンいけるじゃん♪
でも、こういうタイプはよく分からんなぁ。
ガンガンいって、下手に本気になられてもなぁ。
「そ、そうなの?可愛いから彼氏いるのかと思ったけど」
俺は複雑な表情で柏木さんを見た。
柏木さんはちょっとの間無言で俺の顔をじっと見てきた。
ん?んん?
これって?
好感触じゃない?
でもそんなにあっつい視線で見られてもなぁ。
「大丈夫です。部長は絶対ないですから」
沈黙を破って柏木さんが言った言葉はナイフのように尖っていた。