Fahrenheit -華氏-
取引の大雑把な流れを説明して、香坂さんのイメージを聞いたりして、打ち合わせはそれから1時間ほどで終わった。
「では、宜しくお願いいたしますね」
「ええ。またご連絡さしあげます」
にこにこして双方が頭を下げ、俺たちは車に戻った。
「ふぅ~、助かったよ。柏木さんのお陰」
「いえ」
柏木さんは小さく頷いただけだった。
車を発車させ、会社に戻る道中で、俺は何となく聞いた。
「それにしても柏木さんが花嫁の気持ちを語るなんて…俺、ちょっと感動しちゃった」
「はぁ、そうですか」
「香坂さんも柏木さんの意見に感動してたみたいだよ」
「……別に、そんなつもりはありませんよ」
柏木さんは無表情に前を見ている。
え?じゃぁどんなつもり??
「私にとって花嫁の気持ちなんてどうでもいいことなんです。ただ、取引を成立させたかったから」
「え……どうでもいいって……」
俺はちょっと苦い顔をした。
柏木さんは言葉通り―――やっぱり冷たい。
ときどき……
俺は彼女の中に流れる冷ややかなものから目を背けたくなる。
好きなのに……
でも、俺は彼女のこんな部分がちょっと
苦手だ。