Fahrenheit -華氏-
――――結婚式当日
シンプルなブラックスーツ、にシルバードットのタイはシルバーのタイリングをつけて。
ネクタイと揃いのチーフを胸ポケットに入れ、王冠のモチーフのラベルピンを襟に刺したら完璧だ。
「ふむ。こんなもんか」
俺は都内にあるホテルのトイレで全身をチェックした。
今朝出てくるとき慌てて来たから、何か忘れてるかと思ったけど…大丈夫だったみたいだな。
だって、昨日は明け方まで仕事してたんだもん。
朝10時集合って早すぎるよ。
ぶつぶつ言ってると、
「よ~っす!」と裕二が入ってきた。
「うっす」
裕二は俺と同じくブラックスーツにシルバーのストライプ柄ネクタイ、ラメ入りのシルバーベストを着込んでいた。
「男って楽だよな~こゆうとき」
「同感。女はドレス買って美容院行ってって、大変だもんな」
裕二の言葉に俺は軽く笑って返した。
ご祝儀だってバカにならないのに、その上ドレス代だの美容院代だの出費がかさむ。
ケチなことを言うようだけど、男で良かった~
そんなことを思いながら、俺はポケットをまさぐった。
確かここに入れたはずだけど…
ごそごそとポケットを探る手がふいに止まった。
「ない……」
「はぁ?」
「だから……スピーチの紙……」