Fahrenheit -華氏-
やべぇ!家に忘れたか??
いや、家に帰ってたのはほんのわずかだ。
本当に仮眠を取るだけの二時間程度……
「最後に見たのどこよ?」
裕二が呆れたように俺を見る。
「最後に…?ん~と…」と首を捻って考えてると、「あ」と声をあげ手をポンと打った。
「会社だ」
TRRRR……
出るか…出ろよ……
そんな願いを込めて俺は会社の直通に電話を掛けていた。
運が良ければ柏木さんが出社してるはずだ。
TR…『お電話ありがとうございます。神流グループ㈱外資物流情報部、柏木でございます』
出た!
「あ。柏木さん!俺…」
『……誠に勝手ながら本日の営業は終了いたしました』
柏木~!!!
『冗談です。今度はどうされたんですか?』
柏木さんの声にちょっと呆れたような色がにじみ出ていた。
「あのさ!俺の机の中に昨日書いてたスピーチの原稿入ってない?」
『カオスの中にですか?ちょっと見てみます』
カオス言うな!
そりゃ散らかってるけどぉ。
イジイジと拗ねている間中保留音のメロディが聞こえた。
『ありましたよ』
「やった!良かったぁ。悪いんだけどさ、それ届けてくんねぇ?」
俺は見えない相手、柏木さんに向かって拝む仕草をした。