Fahrenheit -華氏-

やべぇ!家に忘れたか??


いや、家に帰ってたのはほんのわずかだ。


本当に仮眠を取るだけの二時間程度……


「最後に見たのどこよ?」


裕二が呆れたように俺を見る。


「最後に…?ん~と…」と首を捻って考えてると、「あ」と声をあげ手をポンと打った。







「会社だ」





TRRRR……


出るか…出ろよ……


そんな願いを込めて俺は会社の直通に電話を掛けていた。


運が良ければ柏木さんが出社してるはずだ。


TR…『お電話ありがとうございます。神流グループ㈱外資物流情報部、柏木でございます』


出た!


「あ。柏木さん!俺…」


『……誠に勝手ながら本日の営業は終了いたしました』


柏木~!!!


『冗談です。今度はどうされたんですか?』


柏木さんの声にちょっと呆れたような色がにじみ出ていた。


「あのさ!俺の机の中に昨日書いてたスピーチの原稿入ってない?」


『カオスの中にですか?ちょっと見てみます』


カオス言うな!


そりゃ散らかってるけどぉ。


イジイジと拗ねている間中保留音のメロディが聞こえた。


『ありましたよ』


「やった!良かったぁ。悪いんだけどさ、それ届けてくんねぇ?」




俺は見えない相手、柏木さんに向かって拝む仕草をした。






< 322 / 697 >

この作品をシェア

pagetop