Fahrenheit -華氏-
柏木さんはそれから15分程で到着した。
予想より早い到着にタクシーか車を使ったのは明らかだった。
キョロキョロと辺りを見渡しながら、こちらに走ってやってくる。
俺と裕二と綾子は三人で花嫁の控え室の前の廊下で彼女を待っていたところだ。
「あ!柏木さん。こっちこっち!」
手を振ると、明らかに迷惑そうに眉をしかめて柏木さんが俺の元へ来た。
「ごめんね?」
開口一番に謝る。
「もう、しっかりしてください。私はあなたの秘書じゃないんですから」
あ、それ。綾子にも言われました。
「ごめん。まだちょっと時間があるからさ、下のラウンジでコーヒーでもどう?奢るよ」
「いえ……私は……」
と言いかけたとき。
バン!!
扉を開けるもの凄い音がして、俺たち一同は花嫁の控え室の方を振り返った。
ひらひらした裾の長いドレスをちょっと持ち上げて、花嫁が泣きながら飛び出してきたのだ。
な……何事―――!!?
続いて控え室から和服姿の女性が出てきて、大声で叫んだ。
「ちょっと待ちなさい!!誰かっ!マリを止めてっ!!」
マリ―――って新婦のこと??
そんなことを思う暇もなく
「危ない!」裕二の怒鳴り声が聞こえ、
ドンっ!!
鈍い音がして、花嫁と柏木さんが派手にぶつかった。