Fahrenheit -華氏-

「あたし…宏くんがそう言ってくれて嬉しかった……あたしも宏くんのこと好きだったから……」


マリちゃんが顔を覆う。


「じゃぁ何で…」


俺はマリちゃんを見た。口から出た言葉は情けないほど弱々しかった。


「だけど!こんなんじゃダメだと思ったんです!宏くんに申し訳ないって思って…!それと宏くんは優しいからあたしを見捨てておけなかったんじゃないかって!!愛じゃなくて情だったんじゃないかって!!


そんなこと考えてたらとても彼と一緒にはなれないって!思ったんです」


そういいきってマリちゃんはわっと声をあげて泣きじゃくった。


「ま、まぁまぁ、落ち着いて」


裕二が宥めるように声を掛けた。


桐島は首をうな垂れ、額に手をやっていた。


こういう時、男ってダメだな。


かけるべき言葉も浮かばないし、言ったとしてもおざなりになっちまう。


情けねぇの。







「じゃあ考えなければいいじゃないですか」








柏木さんの驚くほど良く透る声が聞こえて、俺たちは全員柏木さんを注目した。








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