Fahrenheit -華氏-
「神の御許におきまして、ここに二人の結婚が成立されました」
神父の高らかな声が聞こえ、式場から拍手が起こった。
拍手とフラワーシャワーの中、桐島とマリちゃんが幸せそうに腕を組んで、ゆっくりと退場していく。
「はぁ……良かったわね。お式」
裕二の隣に居た綾子が感動したのか、それともちょっと悔しそうなのか小さくため息を吐いて言った。
「一時はどうなるかと思ったけど。何とかうまく行ってよかったな」
とこっちは若干お疲れ気味の裕二。
柏木さんは無表情……
それぞれの思いを託して式は終わった。
「ただいまから花嫁によるブーケトスが始まります。独身女性の皆様はお集まりくださいませ」
進行役の女性従業員の声で、綾子が、
「あたし行かなきゃ♪絶対キャッチするわ」と意気込んでいた。
高校時代はバスケ部だったと言うから、自信満々だ。
綾子が走っていく。
「ほら、裕二も手伝って!」
と無理やり嫌がる裕二が綾子に引きずられていく。
「柏木さんは?行かないの?」
「私は遠慮します。何だか殺気だっていますもの」
そう言ってチャペルの前の階段に集まった女性陣の群を指差した。
ホントだ……
みんな花嫁のブーケを欲しさに目の色が変わっている。
さっきまであんなに和やかだったのに…女って怖えぇな。