Fahrenheit -華氏-
パッヘルベンのカノンが流れ、司会進行役の掛け声とともにお色直しをした桐島とマリちゃんが入場してきた。
マリちゃんは綺麗なピンク色のドレスに身を包んでいる。
スライドを使っての簡単な新郎新婦の紹介があり、
「では主賓の方のご祝辞をお願いいたします」と声が上がり俺は「いよいよか」と思いながら席を立った。
新郎新婦が立っている壇上の脇にスタンドマイクがセッティングされていて、そこに光が当たっている。
う゛
俺こういうの苦手。
しかし、主賓と言うからには会社の代表なわけであって、ここでヘマするわけにはいかない。
大体俺が主賓てどうなの?
プログラムを見る限り、友人代表がないことから桐島が会社の上役と友人を一緒に済ませようという魂胆が見える。
可愛い顔して、やることがちゃっかりしてるぜ、全く。
「桐島 宏明さん、花田 マリさん。この度はご結婚おめでとうございます」
まずは祝福の言葉。出だしは上々だ。
桐島との間柄、俺の名前を名乗って、新郎新婦とその家族に着席してもらう。
順調にいってる……と思いマイクに向き直ったとき
俺は固まった。
会場の隅に柏木さんの姿を発見したからだ。