Fahrenheit -華氏-
な…何か言わなきゃ……と口を開こうするが、言葉が出てこない。
桐島とマリちゃんが訝しそうに顔を見合わせている。
薄暗い宴席で裕二と綾子の心配そうな顔も見えた。
柏木さんは―――
まるで射る様に俺をまっすぐに見ている。
俺だって分かってるよ!
ホントは桐島にこんな言葉を贈りたいんじゃないってことぐらい!
本当の気持ちは……
あ~~~もぉ!!!
俺は乱暴にぐしゃりと前髪をかきあげると、マイクを引き寄せた。
「―――俺は、今まで結婚は墓場だと思ってました」
俺の発言に場がざわめきだす。
宴席に座っている招待客たちはそれぞれ顔を見合わせてひそひそ話しているし、副社長をはじめとする役職の方々もあっけにとられた感じで口をぽかんと開けていた。
裕二は「あいつ!」と言った感じで、イタそうに片目を閉じていたし、綾子は「何言い出すのよ!」と言った感じで今にも怒鳴ってきそうだ。
「でも俺は!……ある人に出会って愛の大切さが何か。愛する人と歩んでいく幸せが何かを知りました」