Fahrenheit -華氏-
優秀。
なんだろうな。きっと。
少なくとも管理職の役柄は名前だけのお飾りじゃなさそうだ。
リリリリ……
ふいにデスクの上の電話が鳴った。
ナンバーディスプレイに表示された文字を見て「ゲ」と俺は顔をしかめた。
番号は010-1-xxxx-xxxxとなっている。
アメリカからの国際電話だ。
柏木さんがすんなりした細い手で電話を取った。
「Hello.This is Co.Kannna.(こちら神流株式会社です)」
滑らかな英語だ。
柏木さんの電話にかかってきたあの“M”なる人物と同じ。
「―――Yeah.OK.Thank you.(ええ、分かりました。ありがとうございます)―――Have a nice one.(それではまた)」
一言二言話して、頷いたり相槌を打って柏木さんは電話を切った。
きちんと受話器を戻して、彼女は俺の方を見る。
「亀井産業様の案件ですが、先方のフォレストテクニカルの納期、昨日返事した通りでいけるそうです」
「え…?あ、そう?」
俺は間抜けな返事を返した。
亀井産業の案件は昨日俺がとってきたばかりだぞ?
それをもう納期急かして、もう返事もらったってわけか?
やり手―――って言うより……
もう神の域だな。