Fahrenheit -華氏-
「あのぅ部長」
と、フロアに戻ってきた緑川さんが遠慮がちに声をかけてきた。
何だよ!
俺は若干イラついて顔を上げた。
「相談があるんですが…今日仕事の後、ちょっと外で話せませんかぁ?」
「仕事の後?外?……いや、俺まだまだ仕事残ってるし……ここでは話せないこと?」
幸いにも柏木さんも佐々木も席を外している。
ってか、魂胆見え見え。
その手には乗るかよ。
「…ここじゃちょっと…」
緑川さんは言葉を濁した。顔を伏せ、もじもじと手を組んでいる。
「じゃぁ開いてる会議室行こう。そこでなら話せるでしょ?」
なんとか言うと、緑川さんは渋々と言った感じで頷いた。
各階にはそれぞれ小さな会議室が二つずつある。
俺はその一室に緑川さんを連れて行った。
暗い室内に明りを灯し、壁に背をついて俺は腕を組んだ。
「―――で?話ってのは?」
単刀直入に聞くと、緑川さんはちょっと表情を歪めて俺を見上げてきた。
「……その…あたし、柏木補佐が苦手で……って言うか怖いんです。いっつも睨まれてる感じがして…」
なるほど…そう来たか。
邪魔者を排除していく作戦か…
だけど生憎俺には通じないね。
俺は柏木さんのいいとこたくさん知ってるから。
って言うか柏木さんが怒るのは無理ないことで!
お前がもう少し態度を改めろってんだ!!