Fahrenheit -華氏-
「あー…彼女ねぇ。まぁ冷たそうに見えるけど別にあの人に悪意はないよ。緑川さんだけじゃなく俺らにも同じ態度だし」
ってかお前のその男と女の前で態度を変える方が問題だ!
「緑川さんの気のせいだと思うよ?」
それに柏木さんが怖く見えるのはキミにも問題があるから…とは言えないよなぁ。
仮にも副社長の娘だ。
「そうには思えないけど……」
緑川さんは顔を俯かせて、ちょっと声を震わせた。
「……でも、部長って優しいんですね…」
「え?」
どの流れで、そう思うんだよ。と思わず突っ込みたくなる。
「だって、柏木補佐のこと庇ってるじゃないですか…あの人部長にも結構厳しいのに……」
「…いや。言ってること間違ってないし。何といっても仕事デキるし……」
俺の言葉を最後まで聞かずして、緑川さんはいきなり俺に抱きついてきた。
ち!ちょっと待て!!!
「み、緑川さん!?」
「……部長……あたし、部長のこと好きになっちゃいました……」
潤んだ目で俺を見上げてきて、ぎゅぅと腰に回した腕に力を入れてくる。
いきなりストレート投げてきた!!
直球勝負だな!おいっ。
ってか!
胸!胸当たってる!!
「ちょっと待って!緑川さん。ここは会社だよ」
いつかの俺と柏木さんの会話を思い出す。
柏木さんも、今の俺と同じ気持ちだったのかな。
そう思うと…ちょっと。哀しい。
「部長……あたしじゃダメですか?」
緑川さんはうるうると目を潤ませて、顔を近づけてきた。