Fahrenheit -華氏-
■Acceptation(意味)
その後も緑川さんはしばらくの間涙を流していたが、俺の言葉に納得したのか、そうでないのか鼻をすすりながらも何とか落ち着いた。
何となく気まずい思いで、会議室を出る。
緑川さんは顔を伏せて、フロアに戻っていったが、俺は彼女と一緒に戻る気がせず喫煙ルームで一服してから帰ることにした。
喫煙ルームのガラス戸を開けると、自販機の前で柏木さんが相変わらずの格好をしていた。
揃えた膝の上にちょこんと両手を乗せ、くりくりした大きな目で俺を見上げてくる。
って言うか何!その可愛い姿は!!
「…ど、どうしたの?」
「部長を待っていました」
え?ぇえ!!
柏木さんが俺を!?
ドッキーン!と心臓を高鳴らせる。
だけど柏木さんはほんのちょっと眉間に皺を寄せると、目を細めた。
「部長からファーレンハイト以外の香りが……」
「へ!?」
俺は慌てて袖口を鼻にくっつけた。
ホントだ…さっきの緑川さんの香水だ。
「緑川さんとご一緒だったんですか?」
柏木さんはいつもより声を低くすると、ちょっと不機嫌そうに眉を寄せた。
え?
これって―――
もしかして!!?