Fahrenheit -華氏-

「や!居たけど、何にもないよ!!俺は柏木さんしか見えてないからっ!」


緑川さんに妬きもちを焼いてくれたことが嬉しい反面、誤解を解きたい焦りの気持ちが押し寄せる。


そんな慌てふためいている俺を横目に、柏木さんは小鳥のように可愛らしくため息を吐いた。


「迷惑な視界ですね」


グサっ!!


そりゃぁ俺は鬱陶しいかもしれないけど…そんなはっきりと言わなくても…


ってか妬きもちじゃなかった??


俺の勘違いかぁ。ちょっと寂しいかも。


でも。


今は二人きりだ。さりげなく隣に座っちゃうもんね♪


そんな俺を柏木さんがちらりと横目で見る。


「部長もお疲れですね。緑川さんに迫られでもしました?」


「へ?何で知って……」


口から銜えたタバコがポロリと落ちた。


慌ててキャッチすると、はっ!となり口を噤む。


「別に。隠さなくていいですよ。緑川さんの気持ちには佐々木さんも私もずっと前から気付いてましたから。気付いていなかったのは部長だけですよ。

結構鈍感なんですね」


いやいやいや…君に鈍感って言われたくないよ、瑠華ちゃん。


君だって俺を初めとする裕二と佐々木の気持ちには気付いてなかったでしょ??


そして未だに俺のあっつい気持ちにも恐らく気付いていない。



てか、それはそれでいいのか??


今柏木さんに俺の気持ちが伝わってしまったら、彼女が離れていく気がする―――




それでも俺は柏木さんに変な誤解を与えたくなくて、彼女の顔を覗き込むようにして言った。



「でもまぁ俺は緑川さんの気持ちには応えられないから、丁重にお断りしたよ」


「そう……ですか…」



何となく歯切れの悪い返事。



やっぱ妬きもち妬いてるのかなぁ?





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