Fahrenheit -華氏-
「彼女が居るって言って、簡単に引き下がるんでしょうかね?緑川さん」
柏木さんはタバコも吸わず、膝の上で頬杖をついた。
う゛
正直俺もそれが気になっていたところだ。
あの勢いなら「略奪します!」とか宣言してきそうだ。
「「………」」
何となく二人一緒にため息を吐いて、顔を見合わせる。
俺がため息を吐くのは分かるけど、何で柏木さんが?
俺は不思議そうに彼女を見たけど、柏木さんはすぐに視線を逸らしゆっくりと立ち上がった。
「部長……人は何で誰かを求めたりするんでしょう……」
それはあまりにも抽象的で、難しい質問だった。
俺だって、知りたい。
何故柏木さんをこんなに求めているのか。
でも理屈ではない。
口では説明できない。
俺は柏木さんを本能で欲しているんだ―――