Fahrenheit -華氏-
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あれから3日。
「部長、ロサーダイヤノグスティクスの書類の稟議、どうなりました」
「ああ、ロサーのね」
俺は乱雑に積まれた書類の山から一枚抜き取り紙を手渡した。
「決済降りてるから、あとはよろしく」
「はい。差し出がましいようですが、部長のこのデスクの散らかり具合からいつも見事なまでに書類を探し当てるのは最早芸当としか思えませんが、もう少し整頓した方が分かりやすいかと」
「へ?」
柏木さんは今日も憎らしいほど綺麗な顔の表情を少しも動かさずに、さらりと言った。
「ぷくく」
と隣の席で佐々木が笑いを堪えている。
「は、はい。そーですね」
俺はへらへらと笑って頭を掻いた。
「部長、この書類の字は何て書いてあるのですか?私には解読不可能なのですが」
「部長」
「部長―――」
柏木さんの言葉はいつもナイフのように尖っている。
みっともないが、俺は呼ばれる度にびくりとするわけだ。
夢にまで柏木さんの「部長」という声を聞くぐらいだから、相当キテる。
くっそぅ
柏木 瑠華め。
俺の夢に登場してきた女はあんたが始めてだぜ。
憎ったらしいけど、言われてることはいつも正当なことだからこっちも言い返せないんだけどね。
あ~あ、それにしても……
色んな意味で先が思いやられる。