Fahrenheit -華氏-
まぁ深く詮索しても、こいつは俺に打ち明けてくれそうになかったし、こっちとしても隠していることをわざわざ問い詰めることも面倒くさい。
「まぁこれは貰っておくワ」
ちょっと手を挙げDVDをひらつかせる。
すぐにゴミ箱行きかもしれねぇけど。
俺は社員用出入り口の通路に歩いていこうとして、ちょっと振り返った。
「帰ンないの?」
俺の問いに裕二は言いにくそうに、顔をしかめてちょっと笑う。
「……人を―――待ってる……」
「へぇ…なんだよ、女かぁ?俺が言うのもなんだけど、社内の女はやめとけよ?面倒になるだけだからな」
俺のアドバイスを聞いて裕二はちょっと眉を寄せた。
「……ご忠告どーも」
何だよ、アイツ。マジで会社の女待ってるのか?それにしてもいつもとちょっと様子が違う。
わっかんねぇな。
ちょっと頭を掻いて、俺は再び前を向いた。
今度こそ会社を出ようとして俺はふと立ち止まった。
ゆっくりと振り返ると、俺は真剣な目で裕二を見た。
「なぁ裕二。人は何故誰かを求めたりするんだろう…」
俺の問いに裕二はちょっと顔をしかめた。
「―――知るかよ。ってかDVD持ったまま言う台詞かぁ?」
俺は手の中にあるものを見下ろした。
う゛
確かに。かっこつかねぇな。
どうして求めるのか。
明確な答えなんて誰も知り得はしないんだ。