Fahrenheit -華氏-
休み時間にコンビニに行くと、俺は栄養ドリンクを買おうと手に取った。
直接的な疲労は感じないけれど、やっぱり肩や腰がどことなく重い。
もう歳かな……
なんてちょっと悲観的になる。
親父にはまだまだ適わないな。
あいつは54だってのに、未だ現役で世界中を飛び回っている。
その体力をちょっと息子の俺に分け与えて欲しいよ。
一本手に取ってレジへ行こうとして、思い直した。
もう一本持って今度こそレジへ行く。
フロアに戻る途中の給湯室で柏木さんがコーヒーを淹れていた。
「お疲れ。コーヒー?」
柏木さんは俺に気づくと、
「お帰りなさい。部長も飲まれます?」とマグカップを軽く持ち上げた。
「う~ん、俺はこれ飲んでから」コンビニのビニールを軽く掲げる。
「そだ。柏木さんにも一本ど~ぞ」
ビニール袋から栄養ドリンクを一本取り出すと、柏木さんに手渡す。
「ドリンク剤……」柏木さんはちょっと意外という風に目を広げた。
しまった!あんまりよく考えてなかったけど、こんなおっさんくさいものあげるんじゃなかった!!
「いや!疲れてたみたいだからっ。ごめん、こんな色気のないもん渡して」
だけど柏木さんは
「ありがとうございます。早速頂きます」と言ってキャップを捻った。
マグカップを片手に、ドリンク剤を一気に煽る。
い…一気飲み。
男らしぃ。
キュンと俺の心臓がまたも小さく音を立てた。
でも空のドリンク剤を、水で流す柏木さんの横顔は
やっぱりどこか疲れて見えた。
だけど男の俺顔負けの仕事をこなしてる柏木さんなのに、その横顔はちっともくたびれてなくて
疲労を滲ませる彼女の横顔は
やっぱりどこかしら美しかった。