Fahrenheit -華氏-
だめだ……苛々して怒鳴りだしそうになるし、かと思えば急に涙が出そうになる。
心が―――不安定だ。
あたしは足元に置いたバッグから細長い経口剤を取り出した。
オレンジのパッケージで“リスペリドン内用液”と書いてある。
あんまり服用したくないけどな…
これを飲むと眠くなるから。
だけど今にもぐらぐらと崩れてしまいそうになる精神を落ち着かせるには、今はこれに頼るしかないのだ。
あたしは薬のパッケージを持って席を立った。
給湯室の冷蔵庫にミネラルウォーターのペットボトルが置いてある。
表面にマジックで“外資 柏木”と小さく書いてあった。
他にも他部署の人たちの様々な食品が入っている。
チョコレートやプリンなどの菓子類、飲料水、甘納豆まで入れられていた。
あたしはミネラルウォーターのペットボトルを手に取ると、リスペリドンを水で流し込んだ。
苦い……
いつ飲んでも、喉に独特の苦味が残る。
気持ち悪……
コーヒーで口直しでも、と思いマグカップを手に取ったとき
「お疲れ。コーヒー?」
昼休みから帰ってきた部長がひょっこり顔を出した。
「お帰りなさい。部長も飲まれます?」
「う~ん、俺はこれ飲んでから」
そう言ってにっこり笑う。
あたしは
部長の笑顔が好き。