Fahrenheit -華氏-
ガシャン!!!
と床に叩きつけられたワインのボトルとグラスが派手な音を立てて割れた。
勢い良く椅子を立ち上がると、その場に仁王立ちになり激しく肩を揺らす。
怒りからくる興奮から
息が苦しい程、ぜいぜいと喘ぐ。
酸欠になったように肺が苦しくて、あたしは胸を押さえその場にしゃがみこんだ。
「いい加減にして……」
小さく呟くと、握った拳の上に涙の雫が零れ落ちた。
「もう、うんざり」
地面に付いた両手の近くに、割れたガラスの破片が転がっている。
あたしはその破片を拾い上げた。
ガラスの切り口が、空に浮かび上がった月に照らし出されて、キラリと鋭く光った。
「もう……もう限界なのよ……」
別れたあとでも惑わされる自分が嫌い。
復縁の可能性なんて欠片もないのに。それでもあたしはどこか迷ってるいるし、悩んでいる。
裏切りの果てには何も残らないのに。
だから傷つける。
あの人が好きだと言った自分自身を。
生暖かい何かが腕を伝う。流れ落ちるような早いものではない。
だけど確実に、あたしの中から流れ出しているそれは、
思った以上に鮮明な赤色をしていた。
痛みなんて感じない。
本当は痛いのかもしれないけれど、そう思わないようにしているだけかも。
でも
傷つけられずには居られなかった―――