Fahrenheit -華氏-
不思議だな。
誰かが傍にいるのって、正直面倒くさいと思ってた。
誰かに本心を打ち明けることなんてないと思ってた。
気を遣うのも、もう嫌だったし、相手に合わせるのなんて持っての他。
ましてや変な風に同情されるのは一番嫌。
でも今は―――、一人になりたいのに、誰かに傍に居てほしいと願う自分がいる。
あたしが自分の本心を打ち明けたのは、きっと部長が初めてだ。
部長は……あたしの根本にあるものを知らない。
彼も彼で、きっとあたしの深いところまで立ち入りたくないだろうから、あれこれ聞いてこない。
だから楽。
「もう誰かに振り回されるのはいや。
あたしは誰かの為に生きているわけじゃない。
あたしはあたしの好きなように生きればいいじゃない」
心の中でそんな声が囁く。
そう
それは日本に来るときに誓った言葉だ。
他の誰の為でもない
この世でたった一人の―――あたしの為に……
「行きます。―――連れてってください」
あたしはそう答えた。
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