Fahrenheit -華氏-

華奢で小柄な柏木さんの体に影が落ちる。


彼女との距離は―――ほんの少し。


俺が顔を近づければキスできる距離。




俺は華奢な柏木さんの肩に手を置いて、自分の方へ引き寄せた。


柏木さんは抵抗しなかった。


抵抗の言葉も発しなかった。



ただびっくりしたように俺を見上げている。


困惑したままの柏木さんの頭を引き寄せて、俺の胸の中へ埋めさせた。




「俺の前では無理するな。



哀しいときは泣けばいいし、つらいときは愚痴をこぼしていい。



俺が全部受け止めるから……」



受け止める……


言ってちょっと俺は目を伏せた。


口では簡単に言えるけど、俺の言葉なんてきっと柏木さんにとってはふわふわと心の中を泳ぐ取り留めのない雲のような存在にしか過ぎないだろう。



それでも彼女の気持ちを全部知りたい。



「部長……」


俺の襟元をぎゅっと握って、柏木さんがほんのちょっと顔を上げた。




それと同時に―――


「部長!!」


佐々木の声が背後から聞こえた。








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