Fahrenheit -華氏-
給湯室から顔を出してキョロキョロと辺りを見渡すと、廊下には誰の姿もなかった。
「じゃあ私、タバコ吸ってから戻ります。二人一緒に帰ったら佐々木さんに怪しまれそうだから」
俺は柏木さんの提案に素直に頷いた。
給湯室の前で二手に別れ、俺はフロアに戻った。
「お帰りなさい。部長、柏木さん知りません?さっきから姿が見当たらなくて」
と佐々木が困ったように俺を見てきた。
「さ、さぁ。トイレじゃない?」
俺は適当にごまかしたけど、内心ひやひや。
「部長もさっきまでいませんでしたよね?何か怪しぃ」
と緑川さんが俺をちょっと睨んできた。
ギクっ!!
緑川!お前鋭いなっ!!
すると佐々木が笑い声を上げた。
「部長と柏木さんがぁ?ないない。だって柏木さん部長のこと嫌ってるもん」
ナイスアシスト佐々木!!
でも
「嫌ってる」ってそんなはっきり言わなくても……
柏木さんの心配は取り越し苦労に終わったわけだ。
まぁ、だから佐々木は俺と柏木さんのこと少しも疑ってないわけで。
何となく納得。
でもやっぱ嫌われてるのかなぁ……
でもでも!
嫌ってる人間と一緒に飲みに行こうなんてきっと思わないはず。
そう。
今日は柏木さんと飲みに行く約束してるもんね!