Fahrenheit -華氏-

それだけを励みに俺は頑張った。


定時を向かえ、緑川さんが帰って行った。続いて柏木さん。


彼女にはバラキエルで待っててくれとすでに伝えてある。


時間差で俺が迎えに行く予定だ。





だがしかし……現実は厳しい。


日報を入力し終えた佐々木が帰り支度をしている際に一本の電話が鳴った。


偶然電話の辺りでごそごそと作業していた佐々木が電話を取る。


「はい。神流グループ㈱外資物流事業部、佐々木でございます―――え?……はい、お世話になっております。―――え!……はい、少々お待ち下さいませ」


いやぁな予感がして、俺は恐る恐る顔を上げた。


佐々木が困惑したように眉を寄せている。


「TFメッセンジャーの柘植様からです。発注したはずの商品の個数と種類が間違って納品されているみたいなんですが…」


TFメッセンジャー…つい5日ほど前に緑川さんに書類を渡して、数字通り発注するように伝えた件だ。


書類は佐々木が作成し、柏木さんを通って俺に回り、最終的な決済は俺が下した。


先方との打ち合わせ通りの書類で、三人の目がしっかりと確認したわけだから書類には不備がないはず。


と言うことは……


俺はがくりと首をうな垂れた。


「変わる。回してくれ」


「はい……2番です」


佐々木がおずおずと電話機を指差した。


TFメッセンジャーの担当者に事情を聞くと、全部の商品が一段ずつずれて発注されてるとのことだった。


ありがちな凡ミスだ―――









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