Fahrenheit -華氏-
電話を切り、俺は佐々木に渡してある書類のファイルをこっちに寄越すよう言った。
「どうしましょう?納期はあさってですよね?」
佐々木が困ったように眉を寄せている。
「何とかするしかないだろ。明らかにこっちのミスだ。今から各社に問い合わせする」
「じゃ僕も手伝います…」
立っていた佐々木が椅子に腰掛けようとしたのを、俺は止めた。
「あ~、いい。いい。お前今日高校のときの連れと飲みに行くって言ってたジャン」
「ええ…。ですけど…」
「行って来い。滅多に会えないんだろ?こっちは俺一人で何とかするから」
「しかし…」
尚も渋る佐々木。
まぁ上司を差し置いて、一人で帰るわけには行かないという考えが働いてるのだろう。
「気にするな。お前のミスじゃないんだし。取り返しのつかないことでもないから」
俺はわざと明るく笑って、
「ってか、お前一人居たところであんまかわんねぇよ」と憎まれ口を叩いてやった。
「そうですかぁ?じゃぁ失礼しますけど…」
俺の言葉を本気に受け取ってない佐々木は、気にしながらも頭を下げ、フロアを出て行った。
ちょっとして俺は廊下に出ると、急いで柏木さんに電話をした。
「ごめん!柏木さん!!」
俺は事情を手早く説明した。
「そう言うわけで、俺いつ帰れるか分かんないから、今日はもう先帰って?」
本っ当にごめん!!!
と謝ると、
『わかりました』
と冷静な柏木さんの返事が聞こえ、電話が切られた。