Fahrenheit -華氏-
都内の高級ホテルの一室。
窓から見えるのは小さくある東京のビル、ビル、ビル。
ここからの眺めはまるで箱庭のようだ。
手を伸ばせばすぐに届きそうな、手の中にすっぽりと入ってしまいそうな光景。
何でこのホテルにしたのかは、よく覚えていない。
どうせ女が「一度泊ってみたい」なんて言ったのだろう。
俺はくわえタバコをしたままシャツに腕を通した。
「啓人って良い香りがする。この香りあたし好き~」
同感だ。
俺もこれを気に入っている。
バスローブだけを羽織った女が後ろから抱きついてきた。
ってか俺って自分の名前名乗ったっけ?
「何の香水?」
「ファーレンハイト」
俺は振り返った。