Fahrenheit -華氏-
「はい。出来ました。どうぞ」
「どうもありがとう」
丁寧に礼を言って俺は上着を受け取った。
仕上がりは―――普段の仕事と同様見事なものだった。
上着を渡すと、柏木さんはすぐにパソコンに向かった。
ホントに俺に興味がないようだ。
でも俺は柏木 瑠華の内面に―――
興味を持った。
―――
「ぃよっ!」
二組の接客を終えた11時頃、裕二がふいに俺のフロアに来た。
「出たな、このスケコマシ」
「お前もだろ?ほらっ、この前言ってた社内ホームページのアドレス持ってきてやったぞ」
「そんなんメールか内線で済ましゃいいだろ?なんっでわざわざ…」
と言いかけて俺は口を噤んだ。
「はは~ん、さてはお前柏木さんに会いに来たな。残念、彼女は今席を外してるぜ」
「どこへ行った?」
「さぁ知らね。トイレじゃね?」
「そっかぁ」
裕二は分かりやすいほど落胆の色を浮かべた。
ふっふっふ。タイミングが悪かったな裕二。愛しの(?)柏木さんが不在で。
俺は内心でほくそ笑んだ。