Fahrenheit -華氏-
「あっれ~?二人揃ってお帰りですか??珍しいですね」
同じフロアの広報二課の課長が俺たちが揃ってフロアを出ていくところを見て声をかけてきた。
「怪しいな~デートですか?」
広報二課の課長は俺より10も年上の妻子持ち。
だけど社内で不倫しているとの噂あり。
「内緒にしていてください」
俺はにっこり笑顔を浮かべて人差し指を口に当てた。
課長は軽く肩を竦めると、
「さすが神流部長ですね。かわし方もそつがない」と言って軽く笑い自分のブースへ戻っていった。
「いいんですか?あんなこと言って」
柏木さんがちょっと不安そうに課長の後ろ姿を目で追っていた。
「大丈夫、大丈夫。あの人、本気にしてないから。ってかむしろここで全否定したら逆に怪しいって」
柏木さんはちょっとびっくりしたように目を開くと
「さすが神流部長ですね」と言って口元に笑顔を浮かべた。
「こういうことは初めてじゃなさそうですね」目がそう語っている。
「違っ!俺は社内の女の子と二人きりで飲みに行くことなんて初めてだよ!」
「はいはい、分かりました。行きましょう」
俺の言い訳を軽く受け流し、柏木さんはフロアの扉を開けた。