Fahrenheit -華氏-




酔ッ払ッテシマイタイデス





そう言った横顔は疲れ切っていて、どこか寂しそうだった。


それから柏木さんは離婚に至るまでのことをとつとつと語りだした。


「付き合い始めの頃はとにかくあの人情熱的で、“好きだ”とか“愛してる”とか“君を一生離さない”とかたくさん言ってくれたんです」


「……うん」


「あたしも彼のそんな情熱的なところが好きでした。いえ…好きなのはそんなところだけじゃないですけどね…」


「……うん」


俺はそう答えるしかできなかった。


聞きたいのに………聞きたくない―――


だけどやっぱり俺は聞きたくて…


自分でも良く分からない感情で、アルコールだけじゃなく気持ち悪かった。


「自分より4歳年上だと言うこともあり、頼りがいもあったんです。ぐいぐい引っ張っていくタイプで」


4歳年上……と言うことは今は28歳か。


俺の2歳上。


「明るい人で、話が上手で。気取らない人だった。ハンサムで背が高くて……



優しい人だった」





そう言って柏木さんは顔を覆った。


彼女の中に、まだMは色濃く存在が残っている。


まだ


好きなの―――?






そう聞く必要はなかった―――







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