Fahrenheit -華氏-
指の先が変な風にそわそわして、何やら怪しい動きをしていた。
ゆっくりした足取りで歩いていると、途中で柏木さんがちょっとよろけた。
道に転がっていた小石にでもぶつかったのだろうか、「キャっ」と短く声を上げ、俺の腕を掴んできた。
ドキリ
俺の心臓が僅かに跳ねる。
「ご…ごめんなさい。あたし……」
そう言って慌てて手を離す。
手を―――離されて、俺の中に残念な気持ちが押し寄せてきた。
紳士で行こう―――
そう思ったけど……
「めずらしく酔った?そう言えば昼以来何も食ってなかったしね」
危ないから
そう言い置いて、俺は柏木さんの手を握った。
柏木さんが俺を見上げてぱちぱちとまばたきをする。
「大丈夫です」
そんなことを言われて跳ね除けられるかと思ったけど、柏木さんは素直に手を預けると俺の横で歩き出した。
予想になかった反応に俺の心はドキドキ。
でも心なしか柏木さんの表情が暗い。
道路を往来する車のテールランプが彼女の白い頬に赤い光を灯してた。
何を考えてるのだろう……
そんな風に思っていると、柏木さんがゆっくりと口を開いた。
「あたし……酷い女なんです―――」