Fahrenheit -華氏-
ほんの一瞬の触れるだけのキス。
唇が離れると、柏木さんは驚いたように目を開いて俺をじっと凝視していた。
「………ごめん」
俺の言葉に柏木さんがほんの僅かに眉を寄せた。
「……どうして…謝るの?」
柏木さんの腕がゆっくりと俺の腰に回される。
ふわりと柔らかい感触を体いっぱいで受け止めた。
「ぎゅってしてください。あたし…部長にそうされるとすごく落ち着くんです…」
そんな……
そんなことでいいのなら、俺はいつだって君を抱きしめるよ。
どこでだって抱きしめる。
そしてずっと離さない―――
君が嫌って言っても。
俺は柏木さんの頭に手を回すと、彼女の頭を両腕で抱き寄せた。
柏木さんの柔らかい髪の感触が心地いい。
ほのかに香ってくるシャンプーの香りが心地いい。
彼女の体温が―――
心地いい。
~♪
ふいにコンビにの扉が開いて、大声を上げながら若い男の二人組みが入ってきた。
柏木さんは俺の胸をそっと押しやって、体をやんわりと離した。
離れていかないで……
俺は柏木さんの感触を名残惜しそうに、手放して
それでもこれ以上彼女の内側に入る勇気もなく
何でもないふりしてお茶を取った。