Fahrenheit -華氏-


前に一回タトゥーのことを聞いたが、柏木さんはあまり突っ込んで聞いてほしくなさそうだった。


触れてはいけない部分。


禁域―――かぁ……





俺の視線が柏木さんの細い腕や華奢な肩の辺りを当てもなく彷徨っていると、


「何を考えていらっしゃるのですか?」


と柏木さんの声が聞こえた。


顔を上げるといつもどおり無表情の柏木さんが俺を見ていた。


俺は何でもないように、


「やらしいこと♪」と笑った。


柏木さんが呆れたようにちょっと笑う。



あぁ



やっぱ理由はどうであれ―――どんな種類であれ、


柏木さんの笑顔やっぱり好きだな。


心臓がキュンと来る。




「部長って犬みたいですよね」


何の脈絡もなく柏木さんが言い出した。


上目遣いで俺を見上げてくる顔が、可愛い♪


「…って、犬!」


泡の中からちょっとだけ手を出すと、


「啓人、お手」


ワン♪


「って俺は犬じゃねぇ!!」


啓人って名前呼ばれて嬉しいけど……


俺は人間のオスであって、犬じゃありません、瑠華サン。


「じゃ、おかわり」


「だぁかぁら。犬じゃないって」







柏木さんはちょっと俺に顔を近づけると、ちょっと微笑んだ。






「啓人はダメダメなワンコですね。






じゃこれは?できるかなぁ?―――キス」








< 434 / 697 >

この作品をシェア

pagetop