Fahrenheit -華氏-
俺はまばたきをして、柏木さんを見た。
柏木さんは少しだけ微笑んでいた。
キス……
「ワン……」
俺はちょっと笑うと、顔を柏木さんに近づけてそっと口付けした。
柏木さんの唇は柔らかくて、しっとりしていて
それ以上を求めたくなる。
俺は遠慮がちに舌を出すと、彼女の口腔内に侵入させた。
柏木さんの熱い舌が絡んできて、俺は彼女を思わず抱き寄せた。
すべすべした柔らかい肌は、二ヶ月前に触れた感触と変わりなかった。
やっと……
やっと、再びこの腕に抱きしめることができた。
ずっと求めていた。
ずっと触れたいと願っていた。
唇が離れると、柏木さんはにっこり微笑み、
「良く出来ました」とよしよし、ってな具合で俺の頭を撫でた。
俺、もういいや、柏木さんの犬でも。
彼女が目を向けてくれるのなら
彼女が愛してくれるのなら
彼女が求めてくれるのなら
柏木さんを抱きしめて、俺は何だか泣きそうだった。