Fahrenheit -華氏-
―――
長い風呂だった。
こんなに長湯をしたのは始めてだ。
体中の水分が抜けてカラカラになっている筈なのに、心は満ち足りていた。
風呂でヤるなんて初めてだったけど。
「風呂いいな♪」
声が響いて、いつもより(てか柏木さんとは二回目だけど)何かエロかった。
萌えるな。
風呂からあがった俺がソファでエアコンの風で涼んでいると、柏木さんが背後から俺の頬に缶ビールを突き出し、俺の頬にぴたりと当てた。
「ぅを」
変な声を上げて振り返ると、柏木さんがおかしそうに笑っている。
「暑いでしょう?どうぞ」
「あ、ありがと」
俺が缶ビールを貰うと、柏木さんは俺の隣に回りこんできた。
手にはウィスキーの瓶が握られている。
黒いボトル、黒いラベル。金字で“JAMESON”と書かれていた。
「15年もののアイリッシュウィスキーです。ビールのあとにいかがです?」
「ぅお!!15年もの!飲む♪」
あまりウィスキーを嗜む習慣がない俺でもその数字は興味が引かれた。
用意したロックグラスと二つと水差し、それからさっきコンビニで買ったプリンとレアチーズケーキを置いて、柏木さんはウィスキーの封を開けた。
湯上りの石鹸の香りに混じって、ウィスキーの芳醇な香りが漂ってくる。
とても贅沢な瞬間だった。
子供の頃はそれほど酒に惹かれなかったけど、って言うか何で大人が好んで酒を嗜むのか不思議だったけど、今は分かる。
何故働くのか―――
そう問われたら、今はこの一瞬の為と答えられる気がした。