Fahrenheit -華氏-
スイーツを食べながらウィスキーを飲む。
ゆっくりとした時間の流れの中、好きな人と他愛のない話で盛り上がる。
ありふれた日常だったけど、こんな平凡なことがこんなに幸せだったことを俺は初めて知った。
アルコールが入った口は俺を饒舌にさせた。
会社のこと、家族のこと、裕二などを含めた友人のこと、趣味のこと。
俺は色んなことを喋って柏木さんに聞かせた。
柏木さんは相槌を打ったり、時には俺の考えに意見したり、笑ったり。
一つ一つが新鮮で、俺もいつもよりたくさん笑った。
何杯目かのウィスキーを飲んでいる最中、柏木さんは瞳をゆらゆらと揺らし始めた。
「眠い?」
俺が聞くと、柏木さんは素直に
「ちょっとだけ」と言って俺の肩に頭を預けてきた。
「ここで寝たら風邪ひくよ?ベッドまで行こう」
断じて言うが、俺はこれ以上のことは望んでいない。
つまりはやましいことを考えてないってことだ。
そりゃもう一戦ヤれりゃいいんだけどネ…
でも柏木さんは疲れているのか、俺の肩で寝息を立て始めた。
安心しきった無邪気な寝顔を見ていると、俺の下心も吹き飛ぶ。
俺は柏木さんをそっと抱き上げると、寝室まで足を運ぶことにした。