Fahrenheit -華氏-
綺麗にベッドメイクされたベッドに柏木さんを横たえると、俺は柏木さんの頬にそっと口付けを落とし、布団を被せた。
「おやすみ―――瑠華………」
愛しい人の名前をそっと呼んで、微笑むと俺は寝室から立ち去ろうとした。
このまま衣服を整えたら帰るつもりだ。
泊まるなんて厚かましいことは考えてない。
恋人でもないのに。
一緒のベッドで眠るのは、彼女がもう少し俺に心を許してくれる日まで取っておこう。
名残惜しそうにもう一度だけ頬に口付けをすると、俺の袖を柏木さんが掴んだ。
「……起きて…たの?」
柏木さんがうっすらと目を開け、俺を見上げていた。
桜色をした薄い唇が僅かにひらいて、何かを呟いた。
「……え?」
耳を寄せると、
「行かないでください。ここに居て………」
と泣きそうなほど弱々しい声が、俺の鼓膜を震わせた。