Fahrenheit -華氏-
柏木さんの隣で横になり、俺は彼女が眠るのを見守っていた。
カーテンを開けたままの窓から見える夜景の反射が、彼女の頬に光を落としている。
俺はここの窓からはっきりと夜景を見たことはない。
だけど外の景色はきっと広大なのだろうな。
それを見ると、まるで何もかも手に入れた気になるんだろうな。
でも
実際は何も手に入れられないんじゃないか。
大きな世界に飲み込まれて、やがては朽ちていく末路を想像するしかできないんじゃないか。
そんな気がしてならない。
俺の愛しい人は俺の腕の中で眠っている。
何でも手に入れられる立場にいるのに、彼女は何一つ手にしていない。
俺も……そんな彼女を手に入れられる日が来ることを想像できない。
でも諦めることなんてもっとできない。
今はまるで綺麗な夜景を見下ろすように、見守るしか俺にはできない。
でも絶対いつか手に入れてみせる。
手のひらの世界が美しかったっと気付いてみせる。
「……ん」
柏木さんが俺の腕の中で小さく身じろぎした。
柏木さんの顔をそっと覗き込むと、彼女はほんの少し眉を寄せて固く閉ざした瞳から
一筋の涙をこぼしていた。
「Max.
Why? Why do you betray me?」