Fahrenheit -華氏-
東京メトロ日比谷線で六本木の駅から、広尾まで柏木さんと満員電車に揺られた。
たった一駅だけど、満員列車がこれほど辛いものだったとは。
昨夜のアルコールが抜けきっていないのに加え、睡眠不足。
人の波に酔いながら、会社に到着する頃には俺はぐったり。
朝からあんな体力を使うとは思わなかった。
柏木さんも車でこればいいのに…でもまぁ車で通勤する距離でもないか。
なんて考えてデスクに向かっていると、佐々木が出勤してきて、始業時間の10分前に緑川さんが出勤してきた。
彼女は一番下っ端だというのに、いつもこの時間帯。
重役出勤というわけだ。
まぁ始業時間だけは守っているわけだから、俺たちは何も言わないけど。
それでもデスクの掃除やコーヒー出しは自然早く出勤してくる柏木さんと佐々木の役目になる。
緑川さんはデスクに座ると、すぐにコンビニで買ってきたサンドイッチを食べる。
いつもの習慣だ。遅く出勤してきてそれはどうなの?と突っ込みたくなるけど、
でも誰も咎めはしない。
何故ならめんどくさいから。
人間注意されなくなると、終わりだな。
なんてしみじみ思っていると、緑川さんが俺の方をじっと見て……と言うか睨んでいるように見えた。
俺がお前を恨んでも、お前に恨まれる覚えはないぞ。
「…どうかした?」
半ば呆れたように問いかけると、
「部長、昨日と同じシャツですね」
なんて言葉が返ってきた。