Fahrenheit -華氏-
その日から俺は新規顧客開拓の為に、営業回りをすることにした。
今までの顧客だけでも充分な成績をあげられるが、会社に居たくなかった。
責任者が逃げ出すということはいかなるものか…と思うが、決してさぼっているわけではない。
しかも新規となると、業者はガードが固くて中々入り込めないから中々骨を折る。
社内のことは柏木さんに任せてある。
そのフォローに佐々木を。
緑川さんは相変わらず雑務をこなしている。
但し彼女にはあまり重要な仕事をさせるな、と二人には言っておいた。
会社に居たくない理由は―――単なる不協和音のせいだけじゃない。
柏木さんのことを色々考えたかったのだ。
諦めることはどうしてもできない。
だったらどうするべきか?
どうでるべきか?
営業回りをしながら、俺はずっと考えていた。
朝早くに会社を出て、夜遅くに帰社する。
柏木さんの方も最近何やら慌しいようで、しょっちゅう打ち合わせとかで席を外しているのでありがたかった。
正直今は……彼女の顔を見るのが
辛い。