Fahrenheit -華氏-
え……?でも携帯の待ちうけは子供の写メだったよ?
俺はてっきり子供好きなのかと思ってたけど……
「部長のお母様は」
柏木さんは何の脈略もなく話を変えた。
「え?おふくろ?」
「ええ、お元気ですか?私は小さい頃一度だけお会いしたんですが」
「さぁ、どうなんだろ?」
「どうって?」
「親父から聞いてない?両親離婚してんだよ」
柏木さんはその事実に驚いたのか、急に顔を上げた。
「離婚……?」
「そ。もう随分前だけどね。おふくろに男ができて、離婚。まぁ親父も仕事ばっかでおふくろをほったらかしにしてたから、寂しかったんだろうね、あの人も」
今なら他人事のように語れるが、当時は俺もそれなりにショックを受けてた。
反対もした。
だけど、二人の意思は強固だった。
「部長はご自分からお父様のもとへいらっしゃったのですか?」
「う~ん、どうだろうね?うち一人息子だし、親父に跡取りが欲しいって言われて、まぁそれならって感じだったかな。
別に親父の会社や資産に目がくらんだわけじゃないけど。
母親には新しい男がいるわけだし、まぁ向こうにとっちゃ俺は厄介者だと判断したわけよ。
だったら望まれて、手元に置かれた方が幸せかなぁ、っとそんな風に思ったわけデスよ」
柏木さんはタバコを口に含むと、ため息のような煙を吐き出した。
「部長はお母様に会いたいと思いませんか?」