Fahrenheit -華氏-
エレベーターの中でキャンキャン吠えてると、あっという間に一階に到着した。
エレベーターの重い鉄の扉が開いて、待っていた女子社員たちが俺たちを見て一瞬びっくりしたように目を開けたが、通り過ぎるときに
「キャ~!なんておいしいツーショット♪」とげんなりする言葉を振りまいて、エレベーターが昇っていった。
勘弁してよ。
血の繋がりさえなけりゃ、できれば避けて通りたい男なのに。
別に嫌いとかじゃない。ただ……
うっとーしい!!
何かにつけて構ってくる…って言うかちょっかいかけてくる?から。
親父は俺の肩に腕を回してそっと耳打ちしてきた。
「今日はな。これから約束があるんだ」
「あ、そう。じゃぁな」
俺は回してきた手をつねりながら、手を払った。
お前が誰とどこで何をしようと俺には関係ない!
つか、早くどっか行ってくれ。
「約束の相手、誰だか知りたいか?」
「別に。どうせ取引先か、専務あたりだろ?」
こいつに女なんてありえねぇ。
おふくろと別れて以来こっちが心配するぐらい、こいつに女の影が微塵も感じられなかったから。
そう言うところはホントに血が繋がってるのか、怪しいところだけど。
ふっふっふ…
親父は整えた口ひげをちょっと指で触ると、意味深に笑った。
何だよ、気持ち悪りぃな。
「教えてやろう。今日は柏木の娘…瑠華さんとデートなのだよ♪」