Fahrenheit -華氏-
■Rule(ルール)
ま、まさか綾子が“あいつ”を……?
ありえねぇだろ…
この間だって喧嘩してたし。
それに“あいつ”は同期だし…って関係ないか。桐島も同期だ。
でも桐島がダメだったからって“あいつ”に転ぶ??
あいつだけは(俺もだけど)男に見えないって言ってたよな??
俺が言うのもなんだが、綾子は決して気が多い女じゃない。
どっちかって言うとガードが固い方で、それなりに美人でモテるのに、振られた男は数知れず。
まさか……ね。
そんなことを考えながらも、俺たちは二人で近くの居酒屋に移動した。
奥まった座敷に落ち着くと、ビールと軽いつまみを頼んで当たり障りのない会話をしていた。
話したいこと、が何なのか知りたかったが綾子から切り出してくれない限り、俺から聞くことはできない。
おかげさまで、いつの間にか親父と柏木さんが食事に出かけたということは、忘れかけていた。
そのうちに
「お待たせ」
と背後から声が聞こえ、振り返るとぎこちなく笑顔を浮かべた裕二が登場した。
半分…いや半分以上想像していたことだし、このメンバーで裕二が合流することに別に違和感はないけど。
だけど俺は綾子の言う「話したいこと」の内容に薄々気が付いていた。