Fahrenheit -華氏-
綾子がトイレから戻ってきて、席に着くと
「決めた!俺は柏木さんに告る!!」と宣言してジョッキをテーブルに置いた。
裕二と綾子が同じタイミングで顔を見合わせた。
さすが年季の入ったコンビだ。
恋人同士になったからって、その息が乱れることがない。
「……今は、止めとけよ」
裕二が枝豆に手を伸ばしながら言った。
「何で~」
「今のままじゃ絶対振られるだけよ」
綾子も苦笑い。
「何でよ!お前らだって何だかんだ言ってくっついたじゃん」
「そりゃあたしは裕二のこと男としては見てなかったけど、友達としては好きだったもん。でも柏木さんは?あんたは上司としても怪しい」
と、こともなげに綾子が言う。
痛いところを突かれて俺はガクリとうな垂れた。
そ~なんだよなぁ。
「それに啓人。お前大事なこと忘れてないか?」
せっせと枝豆を口に運びながら裕二が口を開いた。
お前そんなに枝豆好きなら自分とこ持ってけば?
俺はつまみどころじゃない。
「……大事なこと?」面倒くさそうに目だけを上げると俺は裕二を見上げた。
「そ。柏木さんとの約束。
“あたしを好きにならないで下さい”って条件」