Fahrenheit -華氏-


「難しいって?」


毎日好きな人の顔見られて、仕事ができりゃそれでハッピーじゃん。


そりゃ裕二と綾子の場合、部署も違えば階も違うし、おまけに綾子は親父にくっついてしょっちゅうあちこちを飛び回っている身の上だから、あまり顔を合わすことはないけど。


「だってさ、考えてみろよ?社内で噂になったら、変な目で見られるんだぜ?結婚するのか、とか夜の方はどうなのか…とか、言われたくないこともあれこれ」


「そうそう。普通に仲良く喋ってるだけなのに、恋人同士イチャついてるって思われるのがオチだし。


喧嘩して、顔も見たくないのに合わせなきゃいけないし」




あー…まぁそれは……何となく納得。


裕二&綾子カップル以外にも社内恋愛しているカップルは結構いる。


俺は噂だけを聞きかじっているだけだけど、カップルのどっちかが昨日と同じ服だったりすると、何か勘ぐるもんな……


おまけに妙に二人がよそよそしいと「別れたのか?」なんて考えたりもする。


と、思ってはっとなった。


そういや緑川さんが俺のシャツを見て、そんな疑いの目で見てたっけ?


いやいや、俺の相手が社内に居るってことは知らない筈だ。


もし知られたら……


考えただけでもぞ~っとする。





「んで、お前らはどうするつもりなの?」




俺は気になったことを聞いてみた。


裕二がビールの次の飲み物をメニュー表で眺めながら、目を細めた。




「そんなん黙ってるつもりに決まってンだろ?」




だよね。




相思相愛の社内恋愛ってのは楽しそうだけど……




思った以上に



大変そうだ。





そんな面倒くさいこと、柏木さんが好んでするとも思えない。




益々前途多難……









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