Fahrenheit -華氏-


恵比寿駅からJR山手線で、品川まで。


ここから俺のマンションまで徒歩15分。ほとんど高輪駅に近い場所だけど、都営浅草線に乗り換えるのが面倒だったので、俺はこっちを選んだ。


品川駅を降り立って、マンションまでの道を歩きながら俺は携帯を開いた。


迷わず“柏木さん”のメモリを選択して、俺は電話をかけた。


TRRRR…


3コール程で相手は電話に出た。


「あ。もしもし、柏木さん?」


『………違います』


…え?俺掛け間違えた……?


『って言ったらどうするんですか?』


もう!この人はっ!!手を変え品を変え、いつも俺からの電話を真面目に取り合ってくれないんだから!!


でも


そんなところも…好きなんだよなぁ。


惚れた弱みっての?


何か可愛くて…怒る気力も失せるっつーの。


「…あのさ、今日親父とごはん食べに行ったんだって?あいつ、何かしなかった?」


『……何か……』


柏木さんはちょっと考えるように言葉を切り、少しの沈黙が降りてきた。


やがて


『ああ。大丈夫ですよ。おじさまは部長と違って紳士ですから。ホントに血が繋がった親子かどうか疑わしいものですけど…。部長、実は貰われっ子なんじゃ…』


「そうなんだよねぇ。俺実は橋の下で拾われた…って!そんな古典的なボケはどーでもいい!無事家に着いてる?」


『はい。何を心配されてるのか分かりませんけど、私は大丈夫ですよ』





その一言にほっと胸を撫で下ろす。







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