Fahrenheit -華氏-
まぁ親父に限って娘程の歳の女に手を出すとは考えにくいが、それでも一応…ね。
「と、ところでさっ。親父と何話したの?」
『…何って、昔の話とかニューヨークに居た頃の話とか、あとはうちの両親の話ですかね…。それが何か?』
怪訝そうに声が低まった。
「あ…いや!ちょっと気になっただけで」
親父~!!柏木さんに変なこと言ってねぇだろうな!!!
でも
聞きたいことはそんなことじゃない。
「あの…さ、小さいころ……軽井沢…別荘で……」
ああ!くそっ!!聞きたいことがあるのに、どうしてスムーズに言葉が出てこない!!
『小さい頃、軽井沢、別荘?何の暗号ですか?』
まるで真冬並みの冷たい返答が返って来て、俺は凍りそうになった。
「いや……気にしないでクダサイ」
『変な人……。まぁ部長が変なのは、今に始まったことじゃないですけど…』
グサっ!
相変わらず柏木さん、ひでぇや。
でもでも
ラブ、です。
『何か良く知りませんが、明日も宜しくお願いします』
明日も……
俺は深い瑠璃色をした空を見上げた。
でも東京の街では、空気が濁っているのか、星の輝きさえも濁っている。
軽井沢で見上げた空は
どんな風だっけ?
思い出せない。
でもここよりも空気が澄んでることは間違いないから、きっと夜の星も綺麗だったんだろうな。
この濁った空気の空がやがて明けると、
朝がやって来る。
そして俺はまた、君と会える。
社内恋愛は中々大変だと言うことを裕二と綾子は語ったが、大好きな人の顔を毎日見れることはやっぱり幸せで、
働く意欲と活力を与えてくれる。
「また明日。おやすみ」
俺は柏木さんに送るつもりで、ちょっと微笑んで通話を切った。