Fahrenheit -華氏-
「私からもお願い致します」
隣で柏木さんも丁寧に頭を下げた。
俺はホントは柏木さんにこんなことさせたくない。
いつだって俺の元で、安心して仕事をして欲しい。
それなのに現実は、いつまでたっても出来損ないの俺のフォローばかり。
かっこ悪くて、申し訳なくて……きっと今柏木さんの顔をまともに見ることができないだろう。
「事情は分かりますがね、おたくの部下のミスでしょう?そっちで何とかしてくださいよ」
単なる部下ならどれだけ楽か。
もし佐々木が同じミスをしたならば、怒鳴るだけでは済まさない。
俺の気苦労を知らずに、こっちも手一杯なんだ、と言わんばかりに経理部長は肩をすくめた。
きっと嫌味じゃないだろう。
ホントにここは、それだけのことを言う程多忙な部署なんだ。
「先方にはもうこちらの事情を話してあるのですが、やはりあちらも会計上の処理をしてしまったようで」
「でもこちらの規則は規則で、不可能なことです。折れるわけにはいきませんよ」
折れるわけには……会社の意地ってヤツだな…
そんなこと分かってる。
でもここで引き下がるわけにはいかないんだ。
「そこを何とか!」
「どう言われても無理なものは無理です」
そんな押し問答が続いて、結局話の収集はつかないまま俺は一旦引き上げることを決めた。
こんなことしていても時間の無駄だ。
他のどこかに突破口を見つけるしかない。
「分かりました…出直してきます」