Fahrenheit -華氏-



「私からもお願い致します」


隣で柏木さんも丁寧に頭を下げた。


俺はホントは柏木さんにこんなことさせたくない。


いつだって俺の元で、安心して仕事をして欲しい。


それなのに現実は、いつまでたっても出来損ないの俺のフォローばかり。


かっこ悪くて、申し訳なくて……きっと今柏木さんの顔をまともに見ることができないだろう。





「事情は分かりますがね、おたくの部下のミスでしょう?そっちで何とかしてくださいよ」


単なる部下ならどれだけ楽か。


もし佐々木が同じミスをしたならば、怒鳴るだけでは済まさない。



俺の気苦労を知らずに、こっちも手一杯なんだ、と言わんばかりに経理部長は肩をすくめた。


きっと嫌味じゃないだろう。


ホントにここは、それだけのことを言う程多忙な部署なんだ。


「先方にはもうこちらの事情を話してあるのですが、やはりあちらも会計上の処理をしてしまったようで」


「でもこちらの規則は規則で、不可能なことです。折れるわけにはいきませんよ」


折れるわけには……会社の意地ってヤツだな…


そんなこと分かってる。


でもここで引き下がるわけにはいかないんだ。


「そこを何とか!」


「どう言われても無理なものは無理です」


そんな押し問答が続いて、結局話の収集はつかないまま俺は一旦引き上げることを決めた。


こんなことしていても時間の無駄だ。


他のどこかに突破口を見つけるしかない。



「分かりました…出直してきます」








< 475 / 697 >

この作品をシェア

pagetop