Fahrenheit -華氏-
歓迎会は会社の近くにある居酒屋ですることにした。
俺としてはもっとお洒落で、大人な店をチョイスしたかったのだが、何しろ会社の歓迎会であるわけだし、下手に気張ると柏木さんが引くような気がしたから。
気を楽に、楽しく酒でも飲めたら……
そいでもってアルコールが入ったら、普段と違う柏木さんを見れるかもしれない。
酔った勢いでナニかなるかもしれない。
そんな黒い思惑を抱えて、俺は店まで走った。
「おっつ~~~先にやってんぞ」
店の奥の座敷席で、最初に出迎えたのは裕二だった。片手にはビールのジョッキ。
なんで……
「お前がいるー!!?」
俺は思わず叫んだ。
しかも裕二の隣には外食部の桐島もいる。
「お疲れ」桐島はにこにこ笑顔を浮かべて俺を見上げた。
「お疲れ様です」
裕二の向かい側の席で柏木さんが控えめに頭を下げた。
その隣には佐々木。
「すみません、部長。先始めてますぅ」
佐々木は見たところビールジョッキの半分程しか飲んでないが、もう顔が赤い。
こいつは下戸なのだ。
「外資物流の柏木さんの歓迎会って聞いたから、メンバー三人だけだと寂しいだろ?だから俺たちが来てやったんだぜ?」
裕二はにやりと口の端で笑みを湛えた。
「頼んでねぇ。っつかお前ぜってー柏木さん狙いだろ!」
俺は裕二を睨みつけると小声で言った。