Fahrenheit -華氏-

歓迎会は会社の近くにある居酒屋ですることにした。


俺としてはもっとお洒落で、大人な店をチョイスしたかったのだが、何しろ会社の歓迎会であるわけだし、下手に気張ると柏木さんが引くような気がしたから。


気を楽に、楽しく酒でも飲めたら……


そいでもってアルコールが入ったら、普段と違う柏木さんを見れるかもしれない。


酔った勢いでナニかなるかもしれない。


そんな黒い思惑を抱えて、俺は店まで走った。






「おっつ~~~先にやってんぞ」


店の奥の座敷席で、最初に出迎えたのは裕二だった。片手にはビールのジョッキ。


なんで……


「お前がいるー!!?」


俺は思わず叫んだ。


しかも裕二の隣には外食部の桐島もいる。


「お疲れ」桐島はにこにこ笑顔を浮かべて俺を見上げた。


「お疲れ様です」


裕二の向かい側の席で柏木さんが控えめに頭を下げた。


その隣には佐々木。


「すみません、部長。先始めてますぅ」


佐々木は見たところビールジョッキの半分程しか飲んでないが、もう顔が赤い。


こいつは下戸なのだ。


「外資物流の柏木さんの歓迎会って聞いたから、メンバー三人だけだと寂しいだろ?だから俺たちが来てやったんだぜ?」


裕二はにやりと口の端で笑みを湛えた。


「頼んでねぇ。っつかお前ぜってー柏木さん狙いだろ!」


俺は裕二を睨みつけると小声で言った。

< 49 / 697 >

この作品をシェア

pagetop