Fahrenheit -華氏-
「……ごめんなさい」
何て言葉を掛ければいいのか分からず、あたしは謝った。
どうすればいいのか分からなくて、思わず額を覆う。
その手を部長の手が優しくとった。
「謝らないでよ。柏木さんは何も悪くない」
「悪いのは俺…」
へへっと軽く笑い、部長は手を離した。
部長の
体温が好き。
まだ熱を含んだあたしの腕は熱い筈なのに、部長の熱が心地良い。
部長の香りが心地良い。
どうしてだろう…
まだ手を握っていて欲しかった。そう思ったんだ…
「熱……結構高いね。病院行った?」
部長がわざとらしく話題を変えた。
「……いいえ。でも、薬があったので、それを飲みました」
「…そっか…」
それきり話題が途切れた。
部長と居ると、いつも部長は一人で喋っていた。
あたしはそれを聞くのが結構好きだった。
単なるお喋りな男とは違う。
彼の会話は面白くて、ちょっとのことで笑えて
心地よかったんだ。
だけど今は気詰まりな沈黙だけがこの部屋を支配している。