Fahrenheit -華氏-
マンションで出迎えてくれた、柏木さんは化粧もせず虚ろな目で俺を見てきた。
顔色が白い…というよりも、青い。それなのに頬だけは赤く染まっていた。
柏木さんは、彼女の言う通り風邪をこじらせていた。
もう一度
言うんだ……
自分の気持ちを正直に。
だけど、いざ柏木さんの顔を目の前にすると何も言えなくなった。
情けないな…俺……
でも
諦めることなんてできない。
たった一つの感情が俺を後押しした。
「俺さ!やっぱ諦められないから!!どうしても、この気持ちに終止符が打てない」
思いのたけを彼女にぶつけてみる。
“ごめんなさい”
その一言を予想していたから
「あたしはまだ部長に言ってないことがたくさんあります。
本当のあたしを知ったら部長はきっとあたしなんか好きじゃなくなります」
そう言われたときは正直拍子抜けした。
「話が長くなるので」と言って柏木さんは結局コーヒーを淹れてくれて、
「ちょっと待っててください」と言い置き、ソファに座ることを俺に勧めた。
そして彼女は部屋を出て行った。